老鶯の送り火
『老鶯の送り火』
──どうか××さま、わたしを××して。
とある山奥の集落が『消えた』。正確には、村人すべてが衰弱死していたのだという。
奇怪な現象に人の子が恐れ、噂する中、妖は知己を訪ね山の中にいた。
CoC非公式拡張ルール・あやかしクトゥルフ使用シナリオ
推奨人数:1人
必須:吸い取る or 妖術
推奨技能:目星、図書館、医学
使えるもの:その他探索スキル・戦闘スキル全般
想定プレイ時間:テキセ 2時間前後
本編
■NPCメモ
鶯夏(おうか)
└樹齢1000年の梅の妖樹の木霊。探索者の古い知己。妖力の扱いに長け、力を吸収し循環させ放出させることで、季節外れの花を咲かせることを好んでいた。
自分の植わった山で起きた山火事から生まれた火取魔の子供を拾い、導き育てていた。鬼灯の生まれについては知っていて、健在の頃はなるべく寂しい思いをさせないようにしていた。
シナリオ開始時には既に鬼灯が暴走した際咄嗟に彼を庇う為に力を使い果たし、彼を無傷で護りきった代わりに本体を内側まで焼き焦がされ消滅を免れない存在となっている。しかし老樹の意地か育て子への心配か潜在意識は本体に残っており、探索者から妖力を吸い取ることで花を芽吹かせ、泡沫の顕現を果たす。
鬼灯(ほおずき)
└幼生の火取魔。人間でいうと5歳ぐらい。山の比較的麓に近い場所で起こった山火事で、一人取り残されて焼け死んだ子供の魂が転じて生まれた存在。生まれて間もない為まだその性質が完全に抜け切っておらず、幼子同然の精神性を持つ。訳もわからず彷徨っていたところを鶯夏に拾われ、彼に育てられて立派な火取魔になる…筈だった。
未熟さ故に乗り込んできた退魔師気取りの人間に薄く流れる黒い炎の気配と呼応し、妖力が暴走して自らも消滅する程の大爆発を起こす。その際、鬼灯を無傷で護る為に鶯夏が力を使い果たした。
自らの暴走によって鶯夏を喪い、落とし子に唆され、まだ生き物の魂を吸うことに慣れていないのに人間や他の動物の魂を吸収し始め、暴発寸前の状態で探索者と邂逅することになる。
落とし子
└理性と自立性を持ついずれかの神格の落とし子。鬼灯の引き起こしたエネルギーの暴発を感知して現れ、そこに残っていた幼いあやかしに気まぐれに粉をかける。鬼灯が魂を吸収しきれないことは知っていた為、溢れた魂を回収するつもりだった。けれどあくまで気まぐれの延長の為探索者たちが介入するならば深追いはしてこない。
KPの裁量により、戦闘後に現れるイベントを挿入してもよい。その際のデータは各KPに一任する。
■導入
ある夏の日のこと。
探索者たちは、あるあやかしの友人を訪ねて、片田舎の山に入っていた。
導入中、NPC情報を開示する。
鶯夏(おうか)
└1000歳前後の梅の木の木霊。小山の頂近くに本体があり、滅多なことでは山から下りてこない出不精妖怪。春先にも普通に花を咲かせるが、10年に一度程妖力を放出し、夏の盛りにも梅の花を咲かせる奇癖がある。
彼のこの奇癖を思い出し、わざわざ夏の真っ盛りに咲く梅の花で花見でもしようかな、とはるばる遊びに来た。などといった理由になる。
《幸運》
最近彼に連絡を取った際、赤子を拾った、と言っていたことを思い出す。
◆山頂の惨状
山頂までもう少し、という頃。普段なら見えてくる筈の、山頂の老梅の樹が見えて来ないことに気付く。
《妖力》
見れば、山頂を中心に歪な結界が貼られているようだった。視界はそれにより誤魔化されていたのだろう。結界としては不出来なものであやかしであればこれを超えることに何の問題もないが、それでも普通の人間などは出入り出来ないだろう。
※KP情報
この結界はせめてもの現状を維持し鶯夏の母体を守ろうと、鬼灯が見様見真似で貼ったもの。PLが訊ねるなら、KPは「少なくとも鶯夏が貼ったものではない」と明かして良い。
またもし探索者が解除を試みるなら、1/1d2の妖力対抗で容易に破ることが出来る。破らずとも結界を越えることは可能である。
(描写)
探索者は構わず、結界の中に一歩入った。瞬間、景色が一変した。
ひと言で言い表すならば、無残。凄惨。いつの日も立派な梅の大樹の聳えていた其処は……焼け野原となっていた。
その中心には、聳え立つ大きな影がある。…それは友人であったはずの、炭と化した巨木。
周辺には残り火のような妖力が僅かに漂っているものの、友人…鶯夏が生きている、といった気配は一切感じられない。
▽周辺を調べる
全域《目星》
梅の樹の他にも草木が生えていたはずだが、そのすべてが焼けてなくなっている。
梅の樹からは少し離れたところに、焼けた骨が落ちているのを見つける。
骨に《医学》
まだ新しいものだが、非常に近くで爆発でも受けたのか焼け焦げバラバラになっている。
損傷が激しいが、比較的若い男のものだろうとわかる。
骨に《妖力》
人間の骨のようだが、妖力に似た気配を微かに感じる。
それはあやかしのものとも少し違う、瘴気や邪気とも取れそうな不快な力だ。
全域に《妖力》
微かに残る妖力は、不出来な結界を貼っていた妖力と同質のものであるとわかる。
ちなみに友人・鶯夏のものではないともわかる。
▽梅の樹を調べる
表面は完全に炭化していて、内部に至るまで焼け落ちている。樹としては、完全に死に体であろう。
《目星》などしてよく見るならば、正面から巨大な熱エネルギーの爆発を受けたように感じられる。
‣梅の樹に触れる
(触れようとしなかった場合は、離れようとした時でも良い)
ふ、と。樹に妖力をほんの僅かに吸い取られるような気配がした。
(妖力を-1d4する)
すると、炭化していた枝に一輪、梅の花が芽吹く。…まだ半分はつぼみ、と言った具合だが、そこからは確かに友人の気配を感じた。
けれど呼びかけても応えはなく、変わらず樹自体は"死んだ"ままである。
PLには梅のつぼみを持って行くか問いかけておくこと。(可能な限り持っていく方向に誘導した方がいい)
◆調査情報
山頂の探索を終えた後、《アイデア》《知識》などで「この山で数日前に集落の人間全員が死亡していたという事件があった」ことを開示するといい。
なお、山頂は不出来とはいえ結界の中である為スマホなどの電子機器は圏外である。
▽山について調べる
(導入中、図書館を振りたいと言われたら許可し、ロール後この情報を開示してもいい)
《図書館》
3日前、この山にあった限界集落の住人が全員死亡していたという事件の記事がある。
[消えた村について]
3日前、58歳~91歳までの集落の住人、男女9名が全員死亡しているのを、荷物を届けに来た配送業者が発見、通報。
熱中症や毒ガスの発生、はたまた集団殺人や心中かと噂される中、調査機関の発表では全員が衰弱死であるとされている。
いくら老人ばかり少人数の限界集落とはいえ、一夜にして全員が衰弱死など有り得ないと、ネット掲示板やSNSなどでは様々な憶測や風説が流れている。
この村は山頂、梅の樹から一番近い集落でもある。
▽山について調べる②
(上記図書館と同時開示でもいい)
《図書館》《オカルト》
一週間ほど前、この山に入った若者の行方が分からなくなっている。知人によれば肝試し、それも霊を払いに行った、などと証言されている。
その件から掲示板のオカルト板を浚ってみれば、この山に出るという霊や物の怪を俺が払ってやる、などと豪語するコメントが一週間程前に投稿されている。しかし、山に行ってくるという書き込み以降、その投稿者からの書き込みはない。
上記情報は、山のあやかし等への聞き込みから開示させてもよい。
◆山間の集落
《図書館》で地図を調べたり、《ナビゲート》やスキル<式神>などを使えば、例の集落にたどり着ける。
(描写)
若者が皆出て行き、老人だけがひっそりと暮らす。緩やかに消えてゆくもののひとつだった場所。
人の…生き物の気配はなくその村はしんと静まり返っている。
限界集落とはいえ数日前まで人間が暮らしていたので、生活感はまだ各所に残っている。
▽村の探索
《目星》
ニュース記事などでは人間が衰弱死していたとしか書かれていなかったが、飼われていた動物なども死んでいたようだ。
犬などは回収されたらしいが、家屋から少し離れた小屋の中に鶏の遺体が無残に残っている。
《医学》《生物学》
外傷や病気の痕跡などは見られない。
解剖などで詳しく調べなければ断言は出来ないが、人間と同じく衰弱死であった可能性は高い。
<過去を覗く>を使用する
数日前。寝静まった夜更けの集落に現れた小さなあやかしが、順々に生けるものの「魂」を吸い取っていく様子が見られる。
《妖力》
山頂でも感じた妖力が薄く残っている。辿って行けば、集落の外へ続いている。
◆人間の残した荷物
集落の近くを探索すると、少し外れに山小屋を見つける。
《目星》
集落から少し離れた森の中に、小屋があるのを目にする。山小屋のようだ。
中を覗けば最近使われた形跡があり、小さな荷物が置いてある。
▽荷物
ハイキング道具の入ったナップザック。
スポーツ飲料のペットボトルやタオルなどの他、伯方の塩やら数珠やらお札やらが入っているが、どれもあやかしから見ればただの玩具同然だ。
財布には学生証が、内ポケットからは手帳が出てくる。
▼学生証
都内の大学の1年生らしい。写真を見ると、少し根暗そうな青年だ。
▼手帳
今年の4月から始まる手帳。
メモページに走り書きの独白が残されている。
「進学でやっとあの忌まわしい家から離れられた」
「俺はこの力を『払う』ことに使う。あいつらとは違う」
「俺は人の為になる人間になるんだ」
「ある山に、夏でも花を咲かせる梅の木があるらしい。オカ板の奴らは隠れたミステリースポット扱いだが、俺は騙されない。おぞましい化け物の仕業に違いない」
「俺の力で化け物を退治してやる。俺が、出来損ないなんかじゃない、って証明してやる」
※KP情報
「祓師気取りの男」
シナリオ開始時、既に故人。非常に薄くクトゥグアの血筋を引いている。
邪神信仰の家に生まれた人間で、家の方針とは合わずに大学進学を機に家を出た。
歪んだ環境で育った為、家の者とは違うということを証明しようと、家で身に着けた魔術を異形退治に使おうと固執していた。しかし残念ながらその力は並のあやかしにも神話生物にも、それどころか人間の魔術師にすら及ばない小物。
夏に咲く梅の樹の話は霊や物の怪の仕業に違いないと誰に頼まれた訳でもなく乗り込み、その未熟な魔術は、未熟なあやかしを暴走させる悲劇を起こしてしまう。
●鬼灯との遭遇
集落周辺から妖力を追うなどして移動すると、山の開けた場所に出る。
すると不意に希薄な、けれど異常な妖気を感じ見てみると、やがてひとつの影が現れる。
(描写)
それは小さなあやかしだった。未熟な、まだ幼生と呼んでもいいささやかな存在だろう。
けれど、小さいはずのその姿は歪に成長した果実のように膨れ上がっていた。
幼子…火取魔であろうそのあやかしは、探索者を見て幼い声をあげる。
「あ……あやか、し?」
「どうぶつだけじゃなくて、にんげんだけじゃなくて、あやかしの"たましい"もあればにいさまはかえってくる? くるよね?」
梅のつぼみを持っていればイベントが発生し、持っていなければこのまま戦闘へ移行する。
‣『梅のつぼみ』を持っている場合
(描写)
「──少々、力を借り受けるぞ」
声が聞こえた。
馴染みの、懐かしい友の声が。
『梅のつぼみ』を持っている探索者は、1d4の妖力を失う。
(描写)
手にしていた梅のつぼみが開き、弾ける。
目の前に立っていたのは、紛れもない友の姿。
千年生きた梅の木霊。鶯夏が舞い上がる花吹雪の中に、立っていた。
「にい…さま?」
(台詞:鶯夏)
「おいたが過ぎるぞ、"鬼灯"」
「ああ、すまないな。顕現するのに少々お前の力を借りた」
「此処から元の状態に戻るのは、まあ…無理だ。本体もお前が見た通り、完全に焼けてしまったからな」
「だが、お前から力を借りれば、こうして少しの間顕現することぐらいは出来る。術を使うこともな」
「…あれは俺が保護した子供だ。一度目の暴走からは守ってやれたが……代わりに俺はこの有様だ」
「それはいい。けれど、また暴走するのは見過ごせない」
「見ればわかるだろう。あれは遠からず暴発するぞ」
「此方から、貯め込んだ力を吸いつくしてくれ」
イベント後、戦闘ラウンドへ移行する。
■戦闘
[戦闘レギュレーション]
・エネミーは暴走中の火取魔・鬼灯1体(この暴走は<浄化><精神分析>などによって治めることは出来ない)
・鬼灯は多くの魂を吸い取り歪に膨張しており、これを便宜上暴走状態と呼称する
・鬼灯は戦闘開始時3ポイント分の"魂"を貯め込んでいる。これは探索者側が<吸い取る><吸収>に成功するごとに1ポイントずつ減らしていくことが出来る
・但し鬼灯が戦闘中<吸い取る>に成功し探索者から力を奪うたび、1ポイントずつ"魂"の値は増えていく
・この戦闘は鬼灯のHPを0にする他、貯め込んだ"魂"の値を0にすることでも勝利出来る
・ただし貯め込んだ魂が5ポイント以上になったラウンドの終了時、鬼灯は爆発し全体にダメージを与え戦闘は強制終了となる
・NPC鶯夏が戦闘に参加する場合、彼は探索者側として行動する。PCから特別な指示がなければ、奇数ラウンドに<吸収>を使用する(不安定な顕現の為毎ラウンドは行動できない)
※KP向け
・NPC鶯夏が参戦する場合、鬼灯は鶯夏を攻撃対象にはしない(鶯夏以外を攻撃対象に選べない場合は行動を放棄する)
・貯め込んだ魂は彼にとって鶯夏の為のリソースなので、自分から妖技や他行動に使うことはない。戦闘中は<吸い取る>のみを使用する
・"魂"が5ポイント以上となり鬼灯が「爆発」した場合、鬼灯のHPは0になり、PC・NPCには50のHPダメージを与える
・鬼灯の基本HPは26だが、貯めこんでいる"魂"1ポイントに対し、HP+10を得る。これは戦闘中の<吸い取る><吸収>によって増減するが、蓄積ダメージは別途計算する
・例えば36以上の累積ダメージを与え、吸い取るによって魂を1ポイント以下にした時、累積ダメージがHP補正を上回り戦闘に勝利することが出来る
・NPCも含め<吸い取る><吸収>持ちが3人以上いる時は、"魂"の初期ポイントを4や5に設定してもいい
・高火力PCなら物理のみでも撃破できないことはないが、ギミック上もストーリー上も物理撃破ではシナリオの肝が半減してしまうので、吸収持ち1人以上のパーティーを推奨する
++++++++++++
【鶯夏】
種族:木霊
DEX:7 HP:3(回復しない) 妖力:0(吸収で吸った分はスキルコストとして使用出来る)
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<吸収>(妖力1):相手の妖力やMPを1d4吸収し自分のものにすることができる
────────────
千年生きた老梅の木霊。本体は既に死んでおり、外部供給した妖力で辛うじてあやかしとしての顕現を保っている。
DEXは元のステータスとは異なる。
2ラウンドに1度<吸収>を行うが、これによって本人の妖力が回復することはない。
++++++++++++
++++++++++++
【鬼灯】
種族:火取魔
STR:9 CON:17 DEX:9 SIZ:8
HP:26(56) 妖力:35 DB:0
────────────
吸い取る 65%:1d6+dbポイントのエネルギーを吸い取る。エネルギーと定義されるものは火、電気、光、体力、妖力、魂など
回避 38%:<吸い取る><吸収>の攻撃に対しては回避無効
装甲:なし。但し"魂"1ポイントごとにHP+10
※戦闘開始時のHPは実数で56
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まだ幼生の域を出ない火取魔のあやかし。
未熟な許容限界を超えた魂を吸って歪に膨張している。このまま膨張を続ければ暴発は免れない。
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(戦闘勝利)
力を失った衝撃か、歪に膨らんだあやかしの子供は一瞬燃え上がると萎み、その場に倒れる。
◆選択
(描写)
貯め込んでいたエネルギーを失い倒れていた、鬼灯がよろよろと上体を起こす。
「にい…さま…」
「……おいて、いかないで。つれていって、にいさま……」
頼りない、迷子の子供の声。
小さな火取魔の妖力は尽きかけ、瀕死に近い状態だ。
けれど母体を失い「手遅れ」だった鶯夏とは違い、瀕死ながらもここからきちんと治療し療養させれば力を取り戻せるだろう見込みはある。
けれど子供は、繰り返し「兄」を呼ぶ。
泡沫の存在である木霊は、じっとその姿を見下ろし、やがて探索者の方を振り返った。
「正直に言えば、非常に決め難い」
「あれは俺が千代の生の最後に拾った仔。刹那だが最期になった時まで過ごした仔だ。連れて行くのもやぶさかではない。残して逝くのは惜しい」
「それと同じくらい、あの幼い生のこの先長い未来を、俺という過去に縛られず歩んで欲しいという願いもある」
「故に友よ、俺はお前に答えを預ける。……どちらにせよ、俺の道は此処までだからな」
鬼灯をどうするか。探索者がどちらを選んでもEDに移行する。
■エンディング 老鶯の送り火
(描写)
「…そろそろか」
「最期まで世話をかけた礼だ。──老鶯の、最後の花を魅せてやろう」
言葉とともに、鶯夏に残っていた妖力が膨れ上がり──弾けた。
夏の蒼い空に、白い梅の花の吹雪が舞い上がって踊る。
一面の、季節外れの梅の花と香りの中に、もう風変わりな木霊の姿はない。
それは言葉の通り、永いあやかしの生で咲かせた、最後の花。
‣鬼灯を生かすことを選んだ
「……にいさま」
夏の終わり。呆然と呟く幼子の声を送り火として、噎せるような梅香を名残に、老鶯は彼岸へと渡った。
‣鬼灯を連れて行かせることを選んだ
「…………」
目が眩む程の花吹雪の中で、幼子はそっと瞼を下した。
旧友が姿を消したように、その瞼ももう二度と開かれることはない。
夏の終わり。小さな送り火を連れ、噎せるような梅香だけを名残に、老鶯は彼岸へと渡った。
[クリア報酬]
生還 1d6 妖力回復
最期の梅の花を見た 1d3 妖力回復
背景・補足
■背景
老いた梅の木を母体とする、一人のあやかしがいた。
溜めた妖力の放出ついでに夏の盛りに花を咲かせる奇癖から、仲間から「鶯夏」と呼ばれていたあやかしは、同じ山から生まれた火取魔の幼生を拾う。
霊魂の吸収も儘ならない赤子が一人立ちするまで、ゆっくりと時間をかけて見守るつもりだった予定は、退魔師気取りの人間によって壊されてしまう。
人間の術者如き、千歳のあやかしである鶯夏にとっては訳もない相手の筈だったが、赤子同然の火取魔・鬼灯は干渉より暴走し、貯め込んでいたエネルギーを全て暴発させて大爆発を起こしてしまう。
人間は当然その瞬間木端微塵に、大樹も咄嗟に暴走した幼子を守るためにすべての力を使い母体ごと吹き飛ばされた。
後に残されたのは、焼け焦げた梅の大樹と荒れ果てた山肌、護りにより生き残ってしまった幼く不安定なあやかしの仔だけ。
保護者を失った幼子が絶望し、放心していたところに、通りかかった神格の落とし子が気まぐれに囁いた。
『たくさんの魂を集められれば、彼を呼び戻すことが出来るかもしれない』
かくして幼いあやかしは、人里に死をばらまき始める。
■補足とメモ
老鶯=夏に鳴く鶯。転じて、夏に咲く梅の花。
今まで経験したあやクトゥシナリオが主要NPCはそのシナリオで出会ったあやかしだけだったので、主軸のNPCをPCの旧友にしてみたらどうかな、と書いてみたものになります。
梅の木の寿命は通常100~300年そこらだそうですが、そこは妖の樹なので鶯夏は千年樹。
生の長いあやかしであっても、避けられない友との別れ。そんなシナリオ。
■参考
クトゥルフ神話TRPG 基本ルールブック
マレウス・モンストロルム
18/9/27 設定追加・報酬修正
18/9/7 微修正・公開
18/8/24 仮公開
18/8/22 テストプレイ
- 最終更新:2018-12-17 00:45:05